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School Arc – Chapter 23

 手首から十数センチほどの場所で切り落とされたその『腕』は、しかし恐怖にすくんだ私の手から転げ落ちて厚布の上に転がる際、ガシャンと硬い音を立てた。
When that『arm』, which had been lopped off around 10cm from the wrist, tumbled down the thick cloth and out of my hands which were frozen in terror, though, it made a hard crashing sound.

「……つ、作り物?」

「はい。そうです」
「Yes. That’s right.」

 私は転がり落ちた『腕』をつついてみた。冷たく硬いその感触はまさしく磁器のものだ。一点の曇りもない、白磁のような肌という表現があるが、これはまさしく白磁による肌だったわけである。

 私は脳裏を埋め尽くす疑問符に追い立てられるようにしてさらに荷をほどいた。

 出てくるわ出てくるわ。結局腕が合わせて六本。初めの腕同様、思春期を迎える前くらいの少女を思わせる細さだ。

「私もどうかと思いますよ。十代も半ばに差し掛かった男の趣味が人形作りだなんて」

「人形、づくり……」

「学園に入る歳になったらやめてくれるものと思っていたのに! 美術の先生が『これは芸術だ! ぜひ作り続けるべきだよ私も協力を惜しまない』なんて余計なことを言ってくれたものだからひどくなる一方です!」

「つ、つまりこれは……ルイシャンが?」

「はい!」

「趣味で? 人形を作っているの?」

「はい! 気に入った女性の子供時代を妄想して人形にするのが主の趣味なのです。いや~失敗作をこうやって捨てに行かされるのも大変ですが、何よりヴォルフガング寮長やシェイド監督生が諸用で部屋に来た時なんかもう、いつ隣室の人形部屋が見られてしまうかとヒヤヒヤもので。その度に私の寿命は丸一日分くらい縮んでいるに違いないと――」
「Yes! My master’s hobbies are fantasizing about the girl he likes in his childhood and making dolls of her. Ah~ It’s awful when he makes me throw away the duds like this, but also, more than that, when Dorm Head Wolfgang and Prefect Shade comes to the rooms for business or so, I’m always on pins and needles fearing the day they’ll wind up seeing the doll room in the adjoining room. I’m sure at least an entire day of my lifespan gets cut down every time– 」

 ペラペラと愚痴りだしたオリアの

As he chattered on while voicing his complaints, Oria’s head suddenly lurched forward. I wondered whether he received a backhand chop from a tsukkomi without me knowing it, but that wasn’t it, the object that assaulted Oria’s head — a shoe which seemed to be a man’s — landed on the lawn with a plop.

「R-Ru Xiang…」

 黒髪の佳人は、片方の足に靴を履いていなくてもあくまで優雅な歩みで近づいてきた。

 そのまま芝生の上の靴を拾うと、パタパタと叩いて何事もなかったかのようにそれを履いた。そうするともはや白い異国風の服に一筋の乱れもない、凛とした立ち姿である。

 私はどんな顔をしていいものか分からず俯く。

 今のオリアの話からすると、ルイシャンは男子寮の自室の一方――普通寮の部屋は一部屋だが、ルイシャンはどうやら二部屋続きで利用しているらしい。ルイシャンはこの学園でも扱いが明らかに特別なので、そこは今更驚くことでもない――に趣味で作った人形を飾っている。
Based on what Oria said just now, in a portion of his room — there was usually one room provided in the dormitory, but it appears he somehow had two rooms to use. Since Ru Xiang clearly receives special treatment even though it was this school we’re talking about, that’s nothing to be surprised about now — Ru Xiang was decorating dolls as a hobby.

しかもそれは、ルイシャンが気に入った女性の子供時代の姿を模している。

 かつて職人大国日本に生まれ育った者として、男だから人形を作るのはおかしいなんて言うつもりはない。雛人形とか、実際芸術だと思う。しかし、実在モデルのいる人形である。もちろん相手に承認を得てはいないだろう。

 これをセーフかアウトかで言うなら……セウトくらいだろうか。

 ルイシャンに潔癖な所があるのは知っていたけれど。そういう方向に行っちゃったのね、というのが正直な感想である。ゲーム内では彼の趣味についての言及はなかった。
I had known there was scrupulous side in Ru Xiang, though. My honest impression was, ‘He wound up going in that direction, huh?’. In the game, there hadn’t been any mention of his hobby.

「リコリス先輩……」
「Lycoris-sempai…」

 名前を呼ばれて顔を上げると、ルイシャンがその端正な美貌を悲しげに歪めていた。母性本能を備えた女であれば、やめてそんな顔しないでと思わずにいられない表情である。

「聞いてしまったんですね……」

「え、ええ。ちょっとだけ、その……」

 ルイシャンは、けぶるまつ毛を悲しげに伏せた。普段は涼やかな黒い瞳に涙が溜まっている。

 そっとためらいながら伸ばされた手が、懇願するように私の手に重ねられる。その手は少し冷たくて震えていた。
His hand, which meekly hesitated as it reached out, covered mine pleadingly. That hand was trembling and a little cold.

「理解してくれなくてもいいんです。でもできれば、嫌わないでください……」

 …………………うん。

 まあ、本人に隠す気があるあたり、誰かに迷惑をかけるつもりはないのだと思うし。アルトなんかに比べたら全然可愛い後輩と言ってしまっても間違いではないのではなかろうか。

 そう思いながら私がコクコクと頷くと、ルイシャンの表情がパアッと晴れやかなものになった。まさしく白磁の頬に、ほのかな赤みがさす。
When I repeatedly nodded my head with that in mind, Ru Xiang’s expression turned radiantly bright. A hint of red evidently flushed on his porcelain cheeks.

「良かった。このことは誰にも言わないでいただけるのですね。本当に、ありがとうございます」
「Thank goodness. I can take this as you will never speak of this to anyone, right? Thank you very much」

 ――あれ?

 わりとがっつり要求を重ねてきた?
Did he just topped it off with a relatively firm demand?

 私はどこか釈然としないものを感じながら、しかし言いふらすつもりなど元からなかったので再度頷いたのだった。

「よ、良かったですね! ルイシャン様!」

 私とルイシャンが話す間、どこかハラハラした様子で見守っていたオリアが感動したように声を上げた。

 先ほど自分の主の秘密をあっさり暴露した従者とは思えない、晴れやかな笑顔である。
With that beaming smile, you wouldn’t have believed he was the servant who’d so readily given up his own master’s secret earlier.

 ルイシャンはオリアの言葉には答えず、スッとオリアに近づくと、オリアがその手に握りしめていた手帳を無言で取り上げた。

「あーーーー!!」

 オリアが叫ぶが、ルイシャンは気にとめる風もなくその手帳を私に向けて差し出す。

「貴女のご厚意に報いるためにも、どうぞ受け取ってください。中を見て先輩がお怒りを感じたなら、この者をいかようにも始末していただいて構いません」

 ルイシャンは静かに怒っていたようだ。
It appears Ru Xiang had been silently fuming.

 私は心のなかで二人を『似たもの主従』と名づけながら、ありがたくその手帳を受け取った。

 どうしてこの手帳を私に渡すことが『ご厚意に報いる』ことになるのか気になったというのもあるが、半ば以上は『もうどうにでもして』という心境だった。

 手帳に何が書かれていたとしても、包みの中から人の腕が出てくるほどの衝撃はないだろうと軽い気持ちで私はそれを開いた。
I opened it without taking it too seriously, no matter what was written in the notebook, it probably wouldn’t be as shocking as a person’s arm coming out from inside a wrapping.

 手帳の中身は、小説のような形態の文章だった。

 細かい字で、びっしりと書かれたそれを読むのは集中力を必要としたが、私はすぐにその文章に引き込まれた。

 なぜなら、その話の主人公の名前はリリアム・バレー。

 リリアム――リリィは魔法学園に編入し、そこで一人の青年と出会い、恋をする。ヒーローの名前はヴォルフガング・アイゼンフート。
Liliam– Lily was admitted to the magical school, met a young man there, and fell in love. The hero’s name was Wolfgang Eisenhut.

 小説の中身は、まさしく『例のゲーム』におけるヴォルフルートそのものだったのだから。
The contents of the novel had evidently been Wolf’s route in the 『actual game』.

(1) SAFE or OUT or SAOT

SAFE means that it’s appropriate material (Sfw); OUT means material that would be immediately deleted if posted (Nsfw), and SAOT is material with dubious content that clearly looks NSFW but are not deleted based on deletion criteria. When researching on the net on this, I ended up seeing a picture of a girl who was nearly naked, save for small pieces of cloth that helped to hide the you know what's.

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